台本より一部抜粋
人数:4人
性別:男性:3 女性:1人
・25分くらい
必要SE
・ノック音
・銃声
キャラクタ
アル:アルジャーノン/傷だらけの強面オッサン
ロー:ローズ/バーのダンサー
ジョ:ジョージ/麻薬組織のボス
スタ:スタンリー/ジョージの息子
男:DEAの一員(兼任)
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アルN「ライアー・タウン。この街の野郎は皆嘘つきだ。詐欺、レイプ、暴力、麻薬、殺し、皆何かしらの罪を背負っているくせに、自分だけは善人だという顔をしやがる。街の本当の名前はフライアー・タウン、かつてはチラシの印刷工場で栄えていたが、今刷られてるのは偽札ばかりだ。いつの間にか、ここはライアー・タウンになっちまった。嘘で出来上がった街。ここでは誰もが嘘をついている。嘘によって死に、嘘によって生かされ、嘘に飲み込まれて逃げ出せなくなる。ここはライアー・タウンだ」
(ノック音)
ロー「ハイ、アル」
アル「……いつになったら飽きるんだ」
ロー「何が?」
アル「俺の家に来るのも、バラの花束を持ってくるのも」
ロー「はい、アルジャーノンに花束を」
アル「……入れ」
ロー「そろそろこの前のが枯れる頃でしょ?」
アル「そろそろ枯れるのは俺の寿命だよ。五十目前のじじいの部屋を花だらけにしてどうする」
ロー「花があった方が部屋が明るくなるでしょ。ビール貰って良い?」
アル「ああ」
ロー「それはどっちの”ああ”?」
アル「なにがだ?」
ロー「ビールを貰って良いほうか、花のおかげで部屋が明るくなるほうか」
アル「さっさとそのでかいケツと一緒にビール持ってこい」
ロー「稼ぎの良いでかいケツなの、敬意を払って。はい」
アル「ありがとう。先にこのバラを水に入れてくる」
ロー「私だと思って、優しく丁寧に扱って」
アル「そうだな、棘だらけでお前にそっくりだ」
ロー「棘がないとバラとは呼べないでしょ」
アル「お前がバラだと言うなら、俺はそれを信じるさ」
ロー「嘘ばっかり」
アル「お互い様だ」
ロー「私は正直者よ」
アル「この街にそんな人間居るかい」
ロー「何人かは居るわ。店によく来る、なんとかって刑事とか」
アル「一本のバラについてる棘の数より少ねえよ」
ロー「少ないからこそ価値があるのよ」
アル「お前の価値はそのケツじゃなかったのか」
ロー「酷い男! ビールあげない」
アル「俺のビールだ。俺のソファ、俺の部屋」
ロー「私のバラ」
アル「ああ」
ロー「綺麗でしょ」
アル「ああ」
ロー「座って」
アル「……今日の仕事はどうだった」
ロー「バラの花束を買える程度には稼いできたわよ」
アル「へえ。ケツで稼いだ花か」
ロー「文句あるの?」
アル「ロマンチックなことで」
ロー「ちょっと変な体勢になったら、腰痛めちゃった」
アル「腰は大切だぞ。ダンサーじゃなくてもな」
ロー「上客が居たから張り切って踊ったの。空回りしちゃった。代わりに大股開いてきたけど」
アル「その金でバラの花束ね」
ロー「横になってもいい? くたびれちゃった」
アル「ローズ、お前はここに入り浸りすぎた」
ロー「何が悪いの?」
アル「若い女が来るところじゃない」
ロー「なら部屋片付けたら?」
アル「こんなじじいの所に通ってるなんて知れたら、客が逃げてっちまうぞ。お前のためにならない」
ロー「なら私のためになる事をして」
アル「例えば?」
ロー「膝枕」
アル「……。」
ロー「んー、寝やすい。明日までに腰治るかな」
アル「さっさと帰って寝たらな」
ロー「歩いたら余計痛めそう。今日は泊まるわ」
アル「ローズ」
ロー「良いにおいね」
アル「なに?」
ロー「私、この部屋のにおいが好き。……初めてこの部屋に来た時は、タバコと硝煙のにおいで臭いと思った。でも今は、私が持ってきた花のにおいが混じってる。私のシャンプーのにおいもするし、それが貴方の石鹸のにおいと混じってる。この部屋は、私と貴方のにおいが混ざってるの。良いにおい」
アルN「……ローズは、目も覚めるような美人だ。ブロンドにシルクの様な白い肌。彼女の青い瞳に見つめられると、男は全員魂を吸い取られる。汚いバーのダンサーでおさまる女じゃない。本当は別の顔があるのかもしれないが、俺の知ったことか。こいつが自分を汚いバーのダンサーだと言えば、俺はそれを信じるだけだ。この街に居て、他人の言葉を詮索するなんて野暮なだけ。どうせ皆嘘つきなんだ」
ロー「アル」
アル「ん?」
ロー「頭撫でて」
アル「……どうして」
ロー「貴方に触られると落ち着くの」
アル「俺が触るには、お前の髪は綺麗過ぎる」
ロー「じゃあ切って」
アル「なに?」
ロー「アルが触ってくれないなら、要らない」
アル「馬鹿言え。輝くブロンドもお前の商売道具だろう」
ロー「貴方の銃と一緒?」
アル「……似たようなもんだな」
ロー「もうこんな仕事嫌なの。続けていても何にもならない。表に出たら、私は違う人間にならなきゃいけなくなるわ。もういっそ、貴方の部屋に引きこもっていたい。ここにいれば本当の私で居られる。貴方のローズで居られるの、アル」
アル「ローズ……」
ロー「愛してるわ」
アル「……ローズ、俺にお前を愛させるな」
ロー「……。」
アルN「馬鹿なローズ。俺はお前の言葉を信じるが、受け入れるわけにはいかない。お前は俺の言葉を信じるか? 俺が護衛をやっていると本当に思ってくれているか? 馬鹿な俺。こんなに良い女が思ってくれているのに、人を殺す生き方以外を知らず、足を洗えないでいる。俺と一緒にいると、ローズは危険な目に遭うだろう。そんなの絶対に駄目だ。美しい花は相応の場所で咲き続ければ良い。こんな老いぼれの横に居たら、お前も一緒に枯れるだけだ。馬鹿なローズ。美しいローズ。俺のローズ……」
ジョ「おい、アル」
アル「ん?」
ジョ「どう言うつもりだ?」
アル「何の話だ?」
ジョ「俺に隠しとおせると思ってるのか? 前回の仕事、しくりやがったな」
アル「俺が? しくった? ジョージ、俺がしくった事なんか今までにあったか?」
ジョ「ああ、前回だ」
アル「何が悪かった?」
ジョ「俺は皆殺しにしろと言った。お前は一人、殺し損ねた」
アルN「覚えてる。女だ。彼女は金髪で青い目をしていた。俺が銃を向けると、ベッドの上で縮こまって、震えながら俺に命乞いをしてきた。なぜか俺はその女にローズを重ねて、撃てなかった。馬鹿な女だ、すぐ街を出れば気づかれなかったのに」
ジョ「思い出したか?」
アル「問題ないかと思ったんだ」
ジョ「問題ない? 皆殺しにしろという命令を無視しておいて、問題ない?」
アル「彼女はおびえていた。失禁までしてたんだ、誰かに告げ口する様には見えなかった。すぐ街から逃げ出すかと思ったのに」
ジョ「ああ、そうしようとしたさ。車に乗ったところで捕まえた」
アル「捕まえた?」
ジョ「お前が殺してやっていれば、あんな惨い目には遭わずにすんだのになあ」
アル「待て、ジョージ、どう言う意味だ?」
ジョ「最初は、家族が皆殺しになっていれば、ベネディクトもいい加減言うことをきくだろうと思った。でもお前が娘を生かしたから、プラン変更だ。スタンリー」
スタ「なに、パパ」
ジョ「封筒を」
スタ「オーケイ」
アル「封筒?」
ジョ「前回のお前の報酬だ」
スタ「ほら、アル。受け取れよ」
アル「……。」
アルN「いつも金を入れる封筒。いつもと同じ厚さの札束、その前に無造作に入っているのは、ピンク色の塊。血はすでに乾いて、手のひら大の鶏肉に見えた。内臓だ。どこの内臓だ? 彼女の内臓なのか? 俺が生かしたから?」
スタ「言えよ、アル。嬉しいか? 今回は特別にパパがボーナスをくれたんだぞ」
アル「……何をしたんだ」
ジョ「分かってるだろう、アル。DVDを見たベネディクトがゲロを吐きながら、何でも言うことをきくと言った程度の事さ。そのボーナスはどうする? 焼いて食うか?」
アル「これは何なんだ」
ジョ「娘の子宮だ」
アル「!」
スタ「なんならDVDもつけてやろうか? お前が助けた女がどうなったか」
ジョ「なあアル、俺達は長い付き合いだ。刑務所に居たお前を引き取って、仕事を世話してやったのは俺だろう。俺はお前の父親も同然だ。スタンリーはお前の兄弟。俺達は家族だ。そうじゃないか?」
アル「ああ……」
ジョ「この組織が大きくなれたのも、お前のおかげだ。お前が邪魔者を殺してくれて、今じゃ、この街の麻薬市場は俺達なしでは成立しない。お前はいつだって俺に忠実で、絶対に仕事はとちらなかった。なのに、最近は一体どうした?」
アル「どうもしない。ただ、判断を間違えただけだ」
スタ「ああ、他の事に気をとられてたんだろ」
ジョ「スタンリー、俺が喋ってるんだ!」
スタ「ごめんよ、パパ……」
ジョ「……アル、悩みがあるなら言ってくれ。助け合おう、いつもみたいに。俺がお前の悩みの種を、潰してやる」
アルN「ジョージ・エイベル。麻薬組織のトップに君臨する男。息子の能無しスタンリーならまだしも、この男だけは敵に回しちゃならない。大金を積んで、俺を刑務所から出してくれた時は、ジョージが天使に見えた。でもこいつも、嘘をついてただけだった」
ジョ「教えてくれ、アル。何が悩みだ?」
アル「……何でもない、ジョージ。次は絶対にしくじらない」
ジョ「……そうか。お前がそう言うなら。またな、アル」
アル「ああ」
ジョ「スタンリー、荷物の梱包に戻れ。さっさと送り届けるんだ」
スタ「分かったよ、パパ。すぐ片付けるね」
ジョ「全く、人間の生命力には驚かされる。あれでまだ死なないんだからな」
アル「!」
ジョ「(喉で笑う)」
アルN「……ジョージ・エイベル。こいつは正真正銘の悪魔だ。絶対にローズに近づけるわけにはいかない」