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どこかのアリスの日記

 

私は彼女と争そった理由を次々に忘れていった。
彼女は私を罵ったがその内容が全て事実なので、私はちっとも傷つかない。
思い出したい事を思い出せないくせに、その前の事は思い出してしまって、そこから思い出したいところにたどっていこうとしても無理だった。
だから私は非常にイライラしていた。
とにかく今は、子供達が死んだ理由と自殺会議を開くにはどうしたら良いかが知りたかった。
「教えて頂戴」と私が言うと「それは秘密よ」と彼女が言う。
頭にきたので、私は目に見えるチョコレートを全部片っ端から平らげてやった。
彼女は大泣きして許しを請う。
彼女はまず子供達が死んだ理由を長く歌ってくれて、会議に出る人々の名前を教えてくれた。
私は多分覚えられないので、メモに書いてもらった。
それから私が去る時にほっとして笑った彼女の泣きはらした顔が、酷く不細工な婆だったのに気づいてそう言った。
彼女は大声で泣き喚き、自分の足をつかんで自分の体を真っ二つに裂いて死んでしまった。
私は気にしなかった。
お爺さんは物語にしろという。これは名案だと思ったのでそうする。
Lをリンダへ。けれどあげたものはその分しか帰ってこなかった。
だから私は後に死に掛けた。

 

 

私は知っていた。私は知っていたんだ。 
殴ったり蹴ったりしたら止まらなくなるから、チョコレートを食べつくすだけで我慢してやったんだ。 
「明日は雨ですか」と私は聞いた。 
私はとてもイライラしていた。 
「知りません」と彼女は答えた。 
それならい良いのだけど。 
「さあ」と彼は答えた。 
それは駄目だった。 
イライラした。とてもイライラした。 
でも私は知っていたので我慢をしてみせた。 
でも誰も見てはくれなかった。 
私はいつだって知っていたんだ。 
怒りが暴力に繋がるとちょっとやそっとじゃ止まらない。 
だから私は両腕の中が疼くのをぶんぶん振り回して知らないふりをするしかなかった。 
本当はズタズタに裂いてやりたかったのだ。 
私は今のところ部屋の中に居る。 
ぬいぐるみからは綿が飛び出している。 
私はナイフを持ったりなくしたりしている。 
早くここら出ないと。でも時々一瞬で戻ってくる。 
私は一瞬で居なくなるし、どこへでもいける。 
どこに行こうかな。 
ああ、自殺会議を開かなきゃいけないんだった。 
何通りの方法があるかを調べないと。 
私にはとりあえずやる事があるけど、ぬいぐるみの綿は出っ放しだった。

 

 

 

 

最後に殺さなければいけないものを最初に殺してしまおう。 
生きているものは簡単。死んでいるものは難しい。 
彼女は生きているから頭で考える分には簡単だ。 
なんだって構わない。ナイフでもスプーンでもフォークでも、銃があれば楽。バズーカがあればかっこいい。1mのロープでも十分。 
最低でも何もなくたって良いんだと彼は言った。確かに、私が居れば十分だと思った。 
「私、彼女を一番に殺したいの」と彼に言った。 
「それは具合が良くないな」と彼は言った。 
「どうして」と私が問うと、 
「君にはまだ無理だから」と答えた。それから「世の中には幸運と言う存在があるから、やってみれば彼女を殺せる確立がある。やらなければ殺せる確率は無い。だけど君が殺される確立もないな」と言った。 
「私は別に死んでも構わないのよ」と私が言うと彼は困ったように笑った。器用な男だ。 
「君が死ぬならおれも死んでしまうし、どうせ君が死ぬのならおれが殺してあげたいよ」 
優しい男だ。 
彼はまた少し痩せていた。私は今朝朝食を食べ忘れたのに気がついた。 
ごめんなさいと思ってキスをしてやると、彼は笑っていた。 
「とにかく君はもっと強くならないと」と彼が言う。 
私はこれ以上どこをどう強くすれば良いのか判らない。 
「心を鍛えるのさ」 
「よく人の事が言えるわね」 
彼はにたあと笑うとそのまま消えてしまった。 
器用で優しくて臆病な男だ。だけど私を愛してくれているから、彼がナイフで私を襲う事は無い。彼も死んでしまうから。 
私はイライラするのを少し忘れていたけれど、鼻が詰まっているのを思い出して、今晩がシチューでなければ良いのにと憤慨した。 
魔女は風邪をひいた私の体に鞭をうってハヤシライスを作らせた。 
シチューを作れと言われたら、ヒステリーを起こして包丁を投げていただろう。 
全部終わったら多分彼が現れて嫌味でも言うんだろう。 
そう言えば彼がなんなのかも私の名前も知らないことに気づいたけれど、私はハヤシライスを食べるのに精一杯だった。 
今日は風が強いから、ひよこは飛ばされてしまうと思う。 
それで良いとも思う。 
足は土の地面についているけれど、何時だって何処にだって私は行けた。

 

 

 

 

 

 


 

彼は全てを教えてくれるのに全てを教えてくれない。 
もどかしくてイライラするけれど唾を吐いたら悲しくなった。 
愛する対象が居ないのでとりあえず彼を愛してみているが、それ程悪くは無い。 
ただ時々無性に引き裂いてやりたくなるが、彼の首を絞めている最中でガリガリの体やかさかさの肌に気づいて手を離してやる。 
彼の瞳は私より何億倍もキラキラギラギラ輝いていて、いつかそれを取ってしまおうかとも思う。 
苦手だ。彼の目は苦手だ。 
だけど私は宝石に魅力を感じない。 
彼はいつだったかダイヤを見せてくれた。それ程綺麗とも思わなかった。 
私がくもの巣に散らばった雨の雫を見て大喜びして綺麗と叫ぶと、彼は腹を抱えてゲラゲラ笑った。 
腹が立ったので思い切り蹴り飛ばしてやったら、彼はギャンと情けなく鳴いて吹っ飛んだ。 
「君の愛は何時だって痛い!」と彼が文句を言った。 
「今のは愛じゃないわよ」と冷たく言っても彼は信用しない。 
「左の肘も痛いし喉だって痛い。君のせいだ」 
私は反論しようとしたけど最もな言葉だったので何も言わなかった。 
私が打ちのめされると彼の機嫌はよくなる。ニタアと笑って私の頭を撫でてくれた。 
「あんたは要らないけどあんたの腕は欲しいわ」と私が言うと「腕ならあげても構わないけど、それを動かして自分の頭を撫でるのは結局自分の手で頭を撫でているのと変わらない。それならおれをこのままにしておいた方が具合が良いね。だっておれは君がそう言えばいつだって頭を撫でてやれるから」 
「私、別に頭なんか撫でて欲しくない! こんな腕なんか要るもんですか!」 
私がナイフで彼の腕を切り落とすと彼は叫んで血を吹いた。 
私は暫く良い気味だったけど、段々彼が不憫になって腕を返してあげた。 
元通りになった彼はまた怒って「君の愛は何時だって痛い!」と叫んだけれど、私は反論しなかった。 
そう言えば私は彼を愛していた事を思い出した。 
「愛してるからあいつを殺して」と私が言うと、彼はぱっと飛び出してあいつの喉元に噛み付き、首を引き千切って持ってきてくれた。 
首だけのあいつは首だけでも煩くて、煩わしくて、もう大嫌い大嫌い。 
「殺すのは何時だって君だ」と彼は言った。 
私はあいつの首を何度もナイフで刺しながら、あいつがずっと喚いているのを不愉快に思う。 
目に入りかけた血をぬぐって彼を見やると、彼はニタアと笑っていた。 
私はシチューだけは彼にやるもんかと思いながら、黙らない首を思い切り蹴り飛ばし、血塗れのナイフで切ったプリンを彼に突きつけてやった。 
彼は本気で嫌がった。 
アリは何も気にしていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

自殺会議はまあるい机で行われる。
私を殺すのに必死な人と私を生かすのに必死な人がいる。
私を殺すのに必死な人は大体いい人で私を気持ちよくしてくれる。
彼は顔をしかめる。
私は笑った。
彼は暖かいから好きだ。
ベッドみたいに暖かく私の二の腕を暖める。
「でも猫アレルギーなの」と私は言った。
「自分アレルギーだろ」と彼は言った。
珍しく本気で私を罵ったようだ。
私が泣くと彼は嬉しそうに笑って私を抱き締めた。
「お腹が冷えてる」と彼。
私は大泣きしてたので気付かない。
ヒステリーを起こしているうちに気が付いたら部屋に戻っていたので、本物のベッドで寝ることにした。
暖かいけど私の喉は痛むし、口内に大切な人が居るのを忘れて思い切りあくびをした。
大丈夫だったけどヒヤリとした。
彼はまたどこかに消えてしまった。
「どこからか私が眠ってしまうのを待って、殺すつもりなんでしょう」と私が言うと「違うよ」とどこからか声が聞こえたので眠ることにした。
鼠を探すのは面倒だったのでそのまま。
朝の紅茶が飲めないのは残念だが、バナナシェイクで我慢する。
本屋はバナナシェイクを知らないのだ。
私は落胆こそしなかったが、咳をしてしまった。
今にも吐きそうだが、彼の本の上に吐くのはしのびない。
我慢していたら泣いてしまった。

 

 

 

 

 

 


「バナナのケーキが食べたい」と私が言うと「そんなものはない」と彼が言う。 
「ならチョコレートで構わないわ」と私が言うと「君がこの前食ってしまったろう」と彼が言う。 
「マダムのチョコレートが一番近かったのになあ。でも君がみいんな食ってしまったよ」 
彼女が体を裂くのを止めていれば今頃私は彼女を殴れたのに! 
「探しに行くかい」と彼。 
「バナナとチョコレートよ、場所の見当はつくの。家の中かピクニックのところだわ」 
「なら行こうか」 
「バナナとチョコレートが少なかったら分けないからね」 
「猫はね、そんなもの食べないんだ」 
「それはお気の毒だわ、この世で一番美味しいものはチョコレートだもの」 
「君は今にも死んでしまいそうなのだから、あの世で何が一番美味しいか知るべきだね」 
死にそうなのは彼の方なのだ。 
私は早く何か食べないと思い、ちょっと美味しそうな草を食べた。 
あまりの不味さに私が吐くと、彼は笑いながらまた痩せた。

 

 

 

 

 

 

 

魔女を殺せ魔女を殺せ魔女を殺せ魔女を殺せ魔女を殺せ魔女を殺せ魔女を殺せ魔女を殺せ魔女を殺せ魔女を殺せ魔女を殺せ魔女を殺せ!!!!!!!
魔女が私の喉を裂く!
もういやだこんなろうやに捕まってるなんて!
だけど彼は動いてくれない。
笑ったまんまで「次の手は?」と言う。
魔女を殺そうと私が叫ぶと聞いてないふり知らぬふり。
毒キノコを探しに行くのはいつだって私一人だ!

 

 

 

魔女はもしかしたら自分で勝手に死ぬのかもしれない。 
私は毒キノコの場所を把握したから帰ってきた。 
彼はにたあと笑ってる。 
私は泣きそうだ。 
「泣けば良いのに」と言って彼は私を殴った。 
それ程痛くないはずなのに無性に痛い。 
悲しみよりも怒りがまた湧いてきて、私は彼を拳でぶん殴った。 
次の一発を我慢するのが凄く難しかった。 
地団太を踏んで目の前の木を殴り、太い枝を何度も折った。 
それから自分の顔をガリガリ引っかいていたら彼が抱きしめてくれた。 
鼻水も涙も咳もくしゃみもアレルギーのせいだ。 
「離れてよ、苦しくなる!」と彼を突き飛ばす。 
彼は綺麗に音もなく着地して、木の上に上ってしまった。 
私が倒れこむとそこは炭鉱で、醜い小人達が無気力に歩き回っている。 
「貴方達、私よりも醜いわ。それって相当醜い事よ」と私が言うと、彼らは怒って包丁を持って追いかけてきた。 
こうして彼らは敵になった。私は包丁を知った。 
だけど暫くしたら彼らは怒るのをやめて、またそぞろ歩き。 
私は気味悪い彼らに背筋を震わせながら歩いた。 
この醜い小人達しかここには居ないから、何か聞くなら彼らしか居ない。 
「魔女を殺すべきかしら」と私は適当な一人に聞いた。 
「君じゃあできないよ」と沈んだ声で小人は答えた。 
私はイライラしたけれど、彼が少し上の家の前に背筋を伸ばして立ち、そらみろと言わんばかりに笑っていたのでそっちの方がむかついた。 
「私は出来るわよ!」 
「なら君は彼女だって殺せるはずじゃないか」 
小人は彼女を殺してほしいみたいだった。私もそう思う。 
だけど死ぬのは怖かったから、私は彼の言うとおりまだ弱いんだと答えてフラフラと歩き出した。 
灰色の炭鉱は息が詰まるほど臭い。

 

 

 


 

K for king. My dear husband. 

Kをキングに。私の夫。 

双子が敵なのか味方なのかを調べたいのだが方法が分からない。 
私は彼らの歌を延々聞いてうんざりしていた。 
なんて馬鹿で幼稚で無意味で下らないの。 
私の胸はちっともキュンとしないしワクワクもしない。 
どんどん胸糞が悪くなって、イライラするだけだ。 
「出て行くかい」と彼が言う。 
「それは出来ないわ」と私は答える。 
知ってるくせに嫌な男! 
私がしかめ面をすると、彼は良い気味だとばかりににたあと笑う。 
もう見飽きた。けどこれからも見なきゃいけないんだろう。 
「早いとここの歌、終わってくれないかしら」 
胡坐をかいて頬杖をついて、退屈な私に気づかない彼らを眺めた。 
彼は私の横に行儀良く座り小首を傾げた。 
「君の意思じゃどうしようもない。君の意思はそこらへんの石だ」 
「愚痴にぐちぐち口はさまないで」 
「気晴らしにおれとお喋りでもするかい」 
「良いけどあんた、嫌味ばっかりじゃないの」 
「君だってそうだ。卵と鶏どっちが先かの議論をするなよ」 
「結局卵だったらしいわよ」 
彼らがつまらない歌を歌っている間中、私はこんな感じだった。 
彼が居ないと私は駄目だったかもしれない。 
私はとりあえず退屈せずにすんだし、イライラも少し静かになった。 
結局私は彼らの歌を聞いてどうしたかったのか。 
そう言えば彼らが勝手に聞かせだしたのだと思い出した。 
ああ、嫌な奴ら!

 

 

 

 

 

 

 

 

10

 

空が私を監視している。 
怖い顔して睨んでる。 
私が何時飛び上がって空に来るのかと警戒しているようだ。 
私が飛べるのを知っているだけ利口だと思う。 
でも空は私がその怖い顔を崩せるのを知らない。 
その悪魔みたいな顔も、私にかかれば可愛い兎の顔に変えられるし、その威嚇するライオンの顔も私にかかれば子猫の寝顔。 
巨大な蚊が私を貫こうと何度か旋回してくる。 
私は逃げずに戦った。 
キャンディ爆弾は粉々になった後でも美味しいのよ。 
威力も凄いしね。 
常備しておきたいものだ。 
ただし私への被害も凄いけれど。 
自殺会議はまだ開けない。
 

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