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クリスマスおめでとう! 6

 

 

 

 

12/25

 

 誰もかれもが彼の登場に目をひん剥いて驚いた。エイミーといしては、何故ここに居るのだろうという疑問だけだが、他の三人は訳が違う。彼は死んだはずなのだ。

 グローブを嵌めた大きな手がトナカイたちの手綱を引くと、驚くほど滑らかにトナカイたちは上昇しギルバートの前までやってきた。フランクとエイミーはスカーから立ち上がり、数歩下がる。スカーも彼の膝から起き上がり、振り返った。

 見慣れた真っ赤な衣装と白いひげ、貫禄のあるでっぷりした腹とお茶目な小さい瞳は見間違うはずも無い。フランクが素っ頓狂な声で叫んだ。

「だけど、でも、貴方は死んだじゃない、サンタクロース!」

 目の前の大きなサンタ老人は、深々とため息を零すとヒゲを弄り始めた。呆れ顔で全員を見渡し、いっそ困惑すら窺える。

「ありゃ人形だ馬鹿者! よく見ればすぐ分かるだろう!」
「ええ、人形だって!?」
「腹の上に手紙を置いといただろう! ”びっくりしたか?”と!」
「なんだよそりゃあ!」

 確かにサンタの悪戯好きは皆知っていたが、あんなにそっくりな人形があるのだろうか。まあ作れない事もないのだろうが、それにしたって今回の悪戯は酷すぎる!

 絶句する三人の前で自分の非も認めているサンタは、大きく深呼吸をすると非常に居たたまれない顔をした。こんな事になるとは思わなかったのだ。

「確かに少しやりすぎたのは認めるが……」
「少しだって! ジョークにも限度ってもんがあるよ!」
「たまには過激なのも良いかと思ったんだ。それに、人形はすぐ消えたろう? 知り合いに頼んで特別に作ってもらった物で」
「普通妖精の死体も消えるもんです!」
「……おお」

 今思い出したと言わんばかりにサンタが呻いたものだから、フランクとギルバートは全く同じタイミングでぱちんと額に手を当てた。良くも悪くも彼は子供っぽさが抜けないのだ。それがサンタとして仕事をする上で大きくプラスにはなっているのだが。

 二人は顔を見合わせた。つまりはこういう事なのだ。サンタは自分の代わりに自分そっくりの人形をベッドに寝かし、その腹の上に置手紙を置いた。二人がそれに気づかず人形を揺すり転がり落としたとき、手紙がどこかに行ってしまったのだろう。案外、ベッドのシーツに挟まっているかもしれない。

 しかしながらあの冷静なケビンまで騙してくれるとは、サンタの悪戯の腕も相当である。そんな事を言うとこの老人は大層喜んで次の悪戯を考えようとするので、二人はしっかり口にチャックをした。

「ねえ、もしかしてサンタが死んだと勘違いして、貴方達がサンタ代理をしてたの?」

 ようやく合点がいったエイミーは、二人の真新しい、けれど先ほど色々あって大分汚れてしまったサンタスーツを示して言った。途端にフランクがぎくりと身を固めたが、彼女の真摯な眼差しはそらされる事は無い。

「どうして言ってくれなかったの? 何か手伝ったのに」
「そりゃあ、だって、サンタが死んだなんて重大ニュースじゃないか。他言無用、トップシークレットさ」
「私がベラベラ話すと思った?」
「そうじゃない! そんな馬鹿な! 俺だって出来れば君にこの事を話したかったよ。だってサンタになったなんてカッコイイ姿、そうそう見せられる物じゃないし・・・ああいや、そういう意味じゃなくて、いや、そういう意味なんだけど、ああ……」

 頭を抱えそうな勢いでフランクは困惑し、視線を泳がせる。普段なら情けなく思えるこの姿も、今のエイミーにしてみれば何故だか胸がときめくのだから不思議な物だ。けれどそれは、決してサンタスーツのおかげではない。

 エイミーはほんの少し頬を赤らめて微笑むと、いまだにしどろもどろなフランクに近づきそっと彼を抱きしめた。エイミーとは何度もハグしたことはあったが、何だか今までと様子が違うようでフランクは一層驚き、体が強張ってしまう。

「さっきは助けてくれてありがとう。あんなにカッコイイ人他には居ないわ」

 今度はフランクが顔を赤くすると、意味もなく何度も頷きながら、ああ、だとか、うん、だとかを連呼した後、ようやくかすれた声でありがとうと言う事ができた。

 エイミーはスカーを見やると、スカーにも礼を述べた。以前は極悪スカーでも、今はエイミーとフランクを命がけで守ってくれた命の恩人だ。スカーも体が強張っていたが、恥ずかしさというより慣れない台詞を言われてびっくりしているようだった。

「でもどうして貴方は人形を置いておいたの、サンタクロース?」

 エイミーが問いかけると、サンタはちょっとがっかりした様子で肩を落とし、ひらひらと手を振った。

「手紙にもちゃんと訳を書いておいたんだがな、わしの奥さんがハシカになって、看病しなきゃならなかったんだ。きっとこの前トナカイたちの様子を見に来た時にうつったんだろう。奥さんも強情な人で、絶対に注射はしないと言い張るもんだからハシカの予防注射をしていなくて」
「だけど、いつプレゼントを配る予定だったの? 出発時刻の九時には帰ってこなかったじゃないか」
「わしを誰だと思ってる、サンタクロースだぞ! わし程の玄人なら一時間あれば世界中にプレゼントを配り終わる事ができる。だから今回は出発は十一時にすると、手紙にも書いたんだが」

 これ以上手紙に書いてあったと主張しても意味がないと悟ったサンタは、ため息を零すと、とにかく、と全員をぐるりと見渡した。取り分けスカーははっと息を呑んだ。結果はどうあれクリスマスを奪おうとしていた事に変わりは無いのだ。

「今回スカーのしようとしたことは大罪だ。わたしの独断でどうこうできる物ではない。これから一緒に来てもらうことになる。……が、その前にプレゼントを配らねば! もうクリスマス当日になってしまった」
「間に合うの?」
「本当はわしの手ずからプレゼントを配りたかったのだが、そんな時間もない。意地を張って今から配りに行って誰かを起こしてしまうより、特例として魔法を使うしかないな」

 サンタはホリデー吸引マシーンに移動し、まだ転がっている五つのプレゼントを拾い上げてソリに戻ってくると、そのプレゼントを大きな袋に戻してから袋の口をぎゅっと紐で縛った。

 大きな袋の口をサンタはしっかり握ると、優しくそれを揺すり始めた。サンタが手を動かすたびに、どこからともなく軽やかな鈴の音がシャンシャンと聞こえてくる。

 全員の目の前で、パンパンだったあの袋は見る見るうちにしぼんでいった。やがてやせ細った袋の残骸だけがサンタの手の中に残ると、サンタは袋を畳んでソリの後ろに収納してしまった。

「これで終わりだ。残念ながらスカー、お前は改心したが良い子悪い子リストチェックの時にはまだ悪い子だったから今年のプレゼントはなしだ。来年に期待しなさい」

 スカーはびっくりしていたが、来年プレゼントが貰えるのかと思うと顔を引き攣らせて、笑っているのか驚いているのかよく判らない顔をした。とにかく胸中は嬉しさで一杯だ。

 大騒動となったがこれでようやくクリスマスの仕事は全て終了だ。全員ほっとした顔をして、サンタがトナカイの手綱を握り、さあフェアリーランドに帰ろうとした途端突然後ろから、ちょっと、と声をかけられた。

 二階の窓から小さな女の子が顔を出している。酷く不服気な顔で唇をつんと尖らせていた。全員一瞬どっきりしたのだが、子供であれば自分達を見ても驚かないだろうと思い窓へと近づいていった。

「どうしたんだい?」
「私のプレゼントはどこなの?」
「え?」
「私良い子にしてたのよ! ミサもちゃんと行ったし、聖歌隊の練習も休まなかったし、お皿洗いもちゃんとしたし、弟だってぶたなかったのに、どうして私のプレゼントはないの?」
「君、名前は?」
「スザンよ」

 サンタが不思議そうな顔をして、確かに君は良い子だと頷いている。しかし袋の中にはプレゼントの欠片すら残っていない。気まずい雰囲気の中で、フランクとギルバートは突然同時にあっと声を上げた。

「スザン、そうだ、あの時の!」
「リストチェックの時の!」

 二人はてっきりサンタが間違えたと思っていたのだが、どうやら間違っていたのはリストのほうだったらしい。それに気づかず、二人はスザンの名前を無視してしまったのだ。

 クリスマスに何と言う悲劇だろう。訝しげに睨んでくるサンタと、ふくれ面の少女が非常に不憫に思える。全ては自分達のミスなのだ。

 二人はしばらく見詰め合っていたが、やおらフランクががっくり肩を落とすとソリの縁まで行ってしゃがみこみ、スザンと目線を合わせた。

「ちゃあんとあるよ、君へのプレゼント」

 フランクはポケットをあさり、中から小さな箱を取り出した。スザンの瞳がようやく子供らしいキラキラした輝きに包まれる。その時、フランクが背後で箱の上についたメッセージカードを抜いたのを、後ろにいた四人はしっかり見た。

 特にエイミーはそれを見てはっと息を呑んだ。白い小さなカードの表紙には『エイミーへ、フランクより』と記されていたのだ。フランクはちょっと淋しげな笑顔で箱を差し出すと、小さな女の子の手にそっと握らせた。

「メリークリスマス」
「メリークリスマス、ありがとうサンタさん!」

 満面の笑みでスザンはお礼を言うと、ぱっと家の中に走って行ってしまった。フランクは立ち上がり、困ったような顔でエイミーを見やる。

 自分宛のプレゼントが他人に贈られてしまったのは悲しいが、エイミーはちっともフランクを恨んでなんか居なかった。例え代理とはいえサンタの職務を立派に果たしたのだ。

 落ち込んでいるフランクに近づいたエイミーは、そっと肩に手を置いて微笑んだ。そして彼が何か言うより早く背伸びをすると、フランクにキスをしたのだ。友達同士として頬にキスしたことはあるが、口にしたのはこれが初めてだった。

「……私から貴方によ。メリークリスマス、フランク」
「……メ、メリークリスマス……エイミー」

 フランクは始めこそ呆然としていたが、すぐに耐え切れずにんまりすると突然彼女を抱きしめて熱烈なキスを贈ってやった。きゃあとエイミーのはしゃぐ声がする。物としてのプレゼントはなくなってしまったが、二人にとってこれ以上ない素敵なプレゼントだった。

 サンタはにこにこしながら二人を祝福すると、全員をソリに座らせ手綱を引いた。トナカイたちは滑る様に走り出し、故郷のフェアリーランドへと帰っていく。遠くなる村から、素っ頓狂な叫び声が響いた。

「ママ、ママ、サンタさんからプレゼントもらったのよ!」
「まあ良かったわね、何をもらったの? ……きゃあ、ダダダダダイヤの指輪ー!?」
「……お前、極端すぎ」

 呆れた声でギルバートが呟いたが、エイミーの視線から逃れるために俯いたフランクは何も言えず、ただ顔を赤くしていた。

 

 

 


 一行がフェアリーランドに帰ると、工場の中はてんやわんやの大騒ぎとなっていた。全員が着地し地面に降り立つと、ベティがカンカンになって怒っている。

「死んでなかったじゃない、彼がひょっこり現れたときどんなにびっくりしたか! ケビンも一緒になって勘違いして死ぬかと思ったわ! ああもうこんなにびっくりしたの初めてよ! 全くもう! 貴方達無事で本当に良かったわ!」

 さっきまで怒っていたというのに突然泣き出したベティは、フランクとギルバートに抱きつきわんわん子供のように泣き声をあげた。特にフランクの傷を見た彼女は仰天して、更に声を張り上げた。

 ヒステリックな彼女は話が出来ないので、代わりにケビンに訳を聞くと、二人が出発したあとスカーが飛んでいくのが見え、半狂乱になっているクリスマス部のところへ死んだはずのサンタが現れたとの事だ。事情を話してサンタはびっくりし、大急ぎでソリを追ってきてくれた。

 それからたっぷり三十分もかかって全てを説明し終える頃には、すっかり皆もスカーに対する嫌悪感がなくなり、それどころかフランクとエイミーの命の恩人だとベティは彼にキスしたくらいだ。

 その時、不意に扉が開いて清掃員のかっこうをしたおじいさんがひょっこり入ってきた。クリスマス部以外が残っていると思っていなかった全員は不思議そうにおじいさんを見やる。ただ、バリーじいさんとサンタだけは目をひん剥いていた。

「それで、今年のクリスマスはどうだったね?」

 おじいさんは箒とちりとりを持ったまま、とても親しげに微笑んだ。途端にみんなの顔に笑顔が広がる。色々あったが最高のクリスマスだった。だからその気持ちを素直に伝えると、おじいさんはうんうんと嬉しそうに頷いた。

「ホリデーは幸せでないといかん。それで、君があの悪名高きスカーか」
「もうこいつは悪者じゃない!」

 途端にギルバートは憤慨した様子で口を挟んだ。スカーが慌ててそれを制するが、おじいさんは笑顔を絶やさずにこにこしたままだ。いよいよ全員はこのおじいさんが誰なのか不思議になってきた。

 ギルバートがまだ何か言いたそうに睨んでいるので、おじいさんは手を振ってそれを宥めようとした。それからスカーを細い目で上から下までじっくり眺め、うんうんと頷いてにっこりした。

「随分素敵な心臓の持ち主じゃないか。これならもう悪さをするとは考えられん、君は胸を張って生きなさい。今までした事はこれから償えばいい。勿論、悪さをしたみんなに謝るんだよ。それを約束できるなら君は刑務所に入らなくてもいい」
「……アンタは一体……?」
「こら、アンタとは無礼者め!」

 バリーじいさんは突然大声を出すと、飛び上がってギルバートの頭を叩いた。頭を押さえているギルバートから離れると、おじいさんの元へ駆けつけ、両手を広げて朗々たる声音で宣言した。

「このお方は我らがフェアリーランドのホリデーを治める王、ホリデーキングだぞ!」

 一瞬皆は黙り込んだ後、素っ頓狂な叫び声をあげた。ホリデーキングに会った事があるのは、バリーじいさんとサンタだけだったのだが、それにしても清掃員の格好で来るとは夢にも思わない。

 二度目のてんやわんやの大騒ぎが始まり、ある者は膝をついてお辞儀し、ある者はスカートの裾を広げて会釈し、またある者は何故か土下座をした。つまり、みんなどうするべきかわからなかったのだ。

 大混乱の一同をどうにか宥めたホリデーキングのおじいさんは、楽しそうにカラカラと笑い声を上げた。どうやら人を驚かせるのが楽しいらしい。本質的にはサンタクロースと同じようだ。

 スカーは非常に居たたまれなくなって、汚い自分の洋服の裾を忙しなく弄っていた。許してもらえたとは言え、自分が今までしてきた事はあまりにも酷すぎる事ばかりだ。それに、これからのことも気になった。スカーには家が無いのだ。

 あんな薄暗い山中の洞窟の中に戻るのはまっぴらごめんだった。あんまりにも淋しく、惨めな場所なのだ。しかしスカーはお金が無いので住む家を探す事が出来ない。

「……スカー、スカーなの?」

 突然その場に二つの違う人物が現れた。老いた夫婦が驚愕の眼差しでスカーを見つめ、ゆっくり扉から入ってきたのだ。スカーは、彼の記憶の中がもっと若々しい二人の映像しかなくてもこの夫婦が誰なのか簡単にわかる事ができた。

「パパ、ママ……」

 掠れた声で両親を呼ぶと、母親は目に涙をためて駆け出しスカーを飛び掛るように抱きしめた。父親も妻の後を追い、すっかり大きくなったスカーの肩に手を置く。その手は微かに震えていた。

「私が呼んだんだ。どうにもこうにも君たちは誤解しあっているようだから」

 ホリデーキングはぱちんとウィンクをしてみせて、ようやく母親は声をあげて泣くのをやめた。ゆっくりスカーから離れて、ハンカチでちーんと鼻をかむとまじまじとスカーを見やる。

 何年ぶりの再会なのか。ともかく、両手の指を全部足しても足りないのは確かだ。三人ともしばらく何も言わなかったが、嬉しさ半分困惑半分のスカーがようやく我慢しきれない様子で言い出した。

「どうして今ハグなんか……?」
「愛する息子との再会で、抱きしめない親がいますか!」
「愛する息子? 何を言ってるんだ! 俺はあの日聞いたぞ、二人とも俺を家から追い出すと話してたじゃないか! だから俺は……家出を……」
「家から追い出す? 貴方を? バカ言わないで、貴方こそ何を言ってるの!」
「寝室で話し合ってるの聞いたんだ! あの子はもう家に置いておけないって、近所の評判が気になるからって……今でも夢に見る……そう言ったのはママじゃないか!」
「ああ、愛すべきバカな私の天使! それは貴方のことじゃなく犬の事よ!」
「えっ、ウィニ!?」

 スカーは今にも泣きそうだった顔を一変させぽかんとした。反対に、今まで知らぬ存ぜぬだったウィニの耳としっぽはぴーんと立ち上がり、ぱっとスカーの後ろに隠れてしまった。

「ウィニったらどこでも勝手にうんちしちゃうのよ。ご近所の庭は恐らく完全制覇したでしょうね。その度に謝りに行くのがもう嫌だったのよ。うんち犬の飼い主だ、って白い目で見られるのがたまらなく恥ずかしくて」
「全然知らなかった、どおりで家の中でうんちを見た事がないはずだ。でもウィニはもう大丈夫、今じゃあ俺の立派なアシスタントを務めるくらい頭が良いんだ。うんちは袋の中にして、それを自分で捨てに行く程成長してる」
「あら、それなら良いわ。父さんと長期しつけ教室にやろうって話してたけれど、必要ないわね」

 フランクの隣でギルバートが妙にひきつった顔をしていたが、フランクはとうとうその意味が判らなかった。こうして奇妙なやり取りを経て一つの家族は和解すると、犬も含めてとびきり嬉しそうに抱き合った。

 さて問題はこの後だ。勿論両親はスカーに帰って来いと言った。けれどスカーはもうすっかり大人で、自立しなければならない年齢だ。家族と過ごした時間は少なかったが、それを跳ね除けるほど立派な大人なのだ。

「なら家に住めよ」

 すかさずギルバートが提案した。フランクもこれには大賛成だ。部屋はまだあるし、何より悪者をやめたスカーはびっくりするほど良い奴なのだ。一緒に暮らすには申し分が無い。驚いているスカーに、今度はホリデーキングが優しく言った。

「仕事なら、もし君が嫌じゃなかったら私のところで発明家にならんか? フェアリーランド一のその頭脳を是非これからのホリデーに使わせて欲しい」
「だ、だけど、俺は、そんな凄い仕事……」
「君がこれまでしてきた罪は大きい。なら、大きな仕事で皆を認めさせ汚名返上しないとならんだろう。君は皆に認めてもらいたくてホリデーキングになろうとしたんじゃなかったかな。王にはしてやれないが、今まで君が傷つけた人々に償うのは手伝ってあげられるよ」

 いつの間にか夜は明け、たった今昇ったばかりの朝日が工場の中に注ぎ込まれた。スカーは本当に久しぶりに太陽の暖かさと偉大さを感じ、朝日に照らし出された全員をゆっくり見回した。

 一人の例外もなく、皆スカーに微笑んでいる。朝日があんまりにも眩しくキラキラしていたから見間違ったのではなく、本当に皆がスカーに対して笑っている。生まれて初めての出来事だ。

 だからスカーはもう一つ生まれて初めての出来事を体験する事が出来た。嬉しくて嬉しくて、幸せでたまらない瞬間涙が出たのだ。こんな素敵な感情で涙が流せるなんて、初めて知った。

「……メリークリスマス、みんな」
「メリークリスマス、スカー!」

 明るい声が、クリスマス早朝の工場に内に響き渡った。

 

 

 

 

 

 


「こうしてクリスマスは無事に成功し、皆は素敵なプレゼントをもらって幸せいっぱいの朝を迎えたのでした。めでたしめでたし」

 わあっと拍手と歓声があがり、フランクとギルバートは舞台裏からひょっこり出てくると、はめていた人形をはずして子供達にお辞儀をして見せた。

 クリスマス休暇の学校の一室を借り、『フランクとギルバートの人形劇・クリスマス特別公演』を見事に終えた二人は、子供達同様満面の笑みだった。どうやら、フランクのエンディングシナリオは子供たちのお気にめしたようだ。まあ、事実を書いただけなのだが。

「さあ、そろそろお昼の時間よ。みんなお家に帰りましょう。あ、クッキー貰っていくのを忘れないでね」

 楽しそうに笑いながら、子供達はエイミー手作りのクッキーが入った小さな包みを手に教室から出て行く。バイバイ、また今度、人形劇楽しかったよ、今度も楽しみ、フランクとギルバートの馬鹿……。

「誰だフランクとギルバートの馬鹿ってどさくさに言った奴!」

 同時に怒声を張り上げる二人に、きゃあと笑い声をあげて走っていく子供たち。ため息と同時に、全く、としかめっ面をしてみせたが、二人は可笑しそうにクスクスと忍び笑いを零した。

 劇の後片付けを手伝ってくれるエイミーもまた、呆れたような、けれどどこか面白くてたまらないという顔で微笑んでいた。

「全く、包帯巻いて劇やるなんて思わなかったわ。昨日の今日なんだから休めばいいのに」

 フランクはタイヤでこすったこみかみの傷のせいで、ぐるりと頭を一周して包帯を巻いていた。加えて足の火傷も治療され包帯でぐるぐる巻きなのだが、こちらはズボンの下で見えない。

 しかし、頭に包帯を巻いたフランクとスカーとのとっくみあいで出来た青痣だらけギルバートは、子供達にしてみればヒーローに匹敵する物だった。教室に入ってきたときの子供達の口が、だらしなく半開きされた時笑いを堪えるのにどれだけ必死だった事か。

「良いんだよ、子供達を喜ばせたかったしね。凄い結末だったろ?」
「ええ、うんと驚いたわ」

 楽しそうに笑いあう二人に、ギルバートはこれ見よがしに咳払いをしてからからかうようににっかり笑った。ギルバートにとっても二人が仲良くなったのは嬉しい事だ。フランクもエイミーの前であまりどもらなくなった。

 三人が後片付けを終えて学校から出て行くと、校庭を横切っている最中に空からおーいと呼び止められて驚いた。トナカイに引かれるよく判らない卵みたいなものが空からゆっくり降りてくる。ウィーンと音がして前の部分が持ち上がると、中にはサンタとスカーとウィニが乗っていた。

「凄いだろう、スカーがソリを改造してくれたんだ。本当にこいつは天才だよ!」

 そっと着陸した卵の中で、サンタが上機嫌のまま言った。フランクとギルバートは頭が真っ白になってしまった。確かに噂では、ソリのむき出しになっている面を全て覆って中に暖房を取り付けたいと言うのは聞いていたが、まさか本当に作ってしまうとは。

 三人はしげしげと卵を眺めた。あんまりにも不似合いである。どこかのSF映画ならぴったりだろうが、プレゼントを運んでくれる愛すべきサンタクロース老人が乗るには不適切だ。

「本当に今度からこれで行くの?」
「心配ご無用!」

 ギルバートが顔をしかめて言うとすかさずスカーが声高に宣言し、内部のボタンを押した。卵は三人の前で突然変形を始めた。奇妙なところが持ち上がり、天井が後部に収納され、広さが広がり、機械類が目立たなくなる。やがて、御馴染みのソリが出来上がった。

「イメージを壊さないためにもトランスフォーム可能だ。プレゼントを配る時はこのフォームで、上空の寒い所を飛んでいるときはさっきの卵フォームになる」

 胸を張って宣言するスカーに苦笑を一つ、けれどやはり彼の頭脳と一晩でこれを仕上げてしまう手腕には脱帽だ。スカーの横でパーティ帽子をかぶっている毛むくじゃらのアシスタントと一緒に、楽しそうにこれを作っている様子が目に浮かぶ。

 エイミーはこれから家族と昼食らしく、フランクの頬になんの迷いもなくキスを送ると七時よと釘をさして去っていった。今晩のデートを思って、彼女の頬はばら色だ。

 サンタとスカーもテスト飛行の続きがあるからと、卵フォームにソリを変形させるとゆっくり大空に舞い上がって行った。二人はしばらく小さくなっていく奇妙な物体を眺めている。

「……あのさ、ギルバート」
「ん?」
「俺、もしかしたら、エイミーと一緒に暮らすことになるかもしれなくて……」
「良い事じゃないか」
「……何時までも親友で居てくれるかい?」
「親友以上の親友だろ」

 ふわりと何かがそらから落ちてきた。真っ白の柔らかな雪の結晶だ。ホウホウホウとコインくらいの大きさになったソリから馴染み深いサンタの声が聞こえる。サンタが雪を引き連れてきてくれた様だ。

「言い忘れてたけど、メリークリスマス、ギルバート」
「うん、メリークリスマス、フランク」

 二人はにっこり笑いあうと、降り始めた雪を見上げながら自分達の車に向かっていった。

 フェアリーランド中に降り注ぎ始めた雪に、全ての妖精たちはひょっこり顔を出して笑顔になった。こんなに素敵で愛しい、だからクリスマスは大好きなのだと。

 

 メリークリスマス、メリークリスマス、世界中の皆! クリスマスおめでとう!

 


The End.

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